Lempi Glass:ittala
フィンランドの食器ブランド、イッタラのグラス。普段使いのために買い、来客用に買い足し、割れたらまた買い直して、いまでは我が家の必需品となっている。
イッタラの公式サイトには、次のように記載されている。
ワイングラスより気負わず、ストレートグラスより少しだけおしゃれに。
(https://www.iittala.jp/column/20180618/)
このコンセプトが、見た目の印象と機能性の両面で、実現されている。
飲み口から緩いカーブを描いて底が窄まって脚がつけられた形は、ワイングラスを彷彿とさせる。一方、ワイングラスより太くて短い脚は、グラスの重心を低く保つので、飲み物を入れても安定する。このため、過度に気を遣って扱う必要はない。
グラスの持ち方は人それぞれだと思うけれども、筆者の場合、薬指と小指が丸い底に触れ、拳を半開きにしたときの力まない自然なかたちでグラスを持つことができる。グラスの外側には角張った部分がないので、指先にはストレスがかからない。つまり、とても持ち易い。
また、ワイングラスとは異なり飲み口が窄まっていないため、グラスを大きく傾けなくても、飲み物が口の中へ流れてくる。香りよりは喉越しを楽しむような飲み物を、カジュアルに頂く使い方が、確かに適しているようだ。持ちやすく飲み口が広いため、デザートグラスとしても使いやすい。
さらに、このグラスはスタッキングできるので、食器棚の中で場所をとりにくい。スタッキングした状態では、下のグラスの飲み口と上のグラスとの間に、僅かな隙間が空いている。このため、拭き残した水滴が残っていても、そのうち蒸発してくれる。家庭での日常使いに優しい。
ぱっと見は可愛いグラスだけれども、デザインを深掘りしてみると機能的にも優れている。見事なデザインといえるだろう。
花ふきん:中川政七商店
網戸が普及する以前の住宅では、布団の周りに虫除けとして蚊帳を巡らせていた。
花ふきんは、蚊帳生地を縫い合わせて作られている。需要が先細りとなりつつある蚊帳織りの技術を現代に生かす商品といえる。
蚊帳生地は、縦糸と横糸とを交互に重ねたシンプルな平織りで編まれた生地であり、裁縫に使う木綿糸と同等か、それより細い程度の糸が使用されている。夏の住宅で使用することを考えると、風通しをよくするためにこのような生地が好まれたのも必然と言える。
花ふきんは、この生地を2枚重ねにして縫製されている。2枚重ねでも生地の向こう側が透けて見えるくらい薄くて、洗って絞ると手のひらに収まるくらいに小さくなる。一方で、拡げたときの大きさは約60cm角であり、一般的なふきんと比較すると大判といえる。拡げて使えば洗った食器を拭きやすい大きさとなり、畳んで使えばテーブルを拭くのにちょうどいい厚みとなる。
重ねられた2枚の生地は互いに縫い合わされて、よれ難い。また、生地の端部は折り返されて、強度が高められている。薄い生地でも、破れたりほつれたりし難い、丁寧な作り込みがなされている。
花ふきんという名前が示すように、このふきんは、色彩や柄のバリエーションが多い。ふきんをわざわざ綺麗な色に染め上げる発想は、簡単には生まれないと思う。
バリエーションのなかから敢えて個人的なオススメを挙げさせて頂くならば、濃い藍色のふきんをお勧めしたい。淡い色の生地のふきんは使い込むうちに汚れが目についてくるが、濃い色のふきんは、汚れが目立ち難い。汚れが見えなければ、清潔感がある。白くて汚れたふきんを苦々しく思いながら使うより、黒くて汚れが見えないふきんを気楽に使うほうがいい。
そして、ふきんと名付けられているけれども、風呂敷のようにものを包んだりして使うこともできる。包まれたものが少しだけ透けて見えるので、完全に見えなくなる風呂敷よりも、中身が気になるワクワク感を演出できる。
花ふきんは、糊がけされた状態で売られている。洗うとしんなりして、使い込むほどに、柔らかくなる。革の財布や木の器など、使うほどに変化するものを日常生活に取り入れると、少しだけ生活が楽しくなる。少しだけ生活が楽しくなるものに囲まれて暮らすと、けっこう生活が楽しくなる。コロナ禍の今だからこそ、家の生活を見直したい。
鍋敷・新三波:鋳心ノ工房
三又に分かれた鍋敷き。鋳物の表面に漆を焼き付けて仕上げられている。古い技術でつくられたものでありながら簡素な幾何学形状をしているため、現代の生活シーンに置かれても違和感を感じない。また、漆のしっとりとした質感が鉄のゴツゴツしたテクスチャにミックスされて、手に取ったときの感触も見た目も柔らかい。
この鍋敷きには、土鍋やダッチオーブン等の大きな鍋はもちろん、ドリップポットのような小さな鍋も置くことができる。大きな鍋は鍋敷きの全体で、小さな鍋は中心部分で支えられる。このため、家族で鍋を囲む場面や一人でコーヒーを淹れる場面など、さまざまな場面で用いることができる。
三又に分かれた本体の先端部分にはテーパー形状の脚が一体成型されており、それぞれの脚には取り外し可能なゴムキャップが嵌められている。これにより、鍋からテーブルへの熱伝導が抑えられる。木のテーブルでも焦げ付くことがなく、熱に弱い塗装を剥がすこともない。また、ゴムキャップを外せば、ストーブの上に置けるので、やかんに当たる熱を和らげることができる。
(下の写真は筆者が自宅で使用しているものなので、図らずも汚れてしまっている)
ところで、4本脚の家具は、脚の長さにばらつきがあったり床の面精度がよくなかったりすると、ガタついてしまう。レストランのテーブルや椅子がぐらぐらしすると気になるし、落ち着かない。一方で、3本脚の三脚は、脚の長さや床面の面精度に関わらず、安定して据え付けることができる。ブレない写真を撮るカメラマンは、必ず三脚を使う。
つまり、3本脚の鍋敷きは、仮に寸法精度に多少のばらつきが生じたとしても、鍋を安定して支えることができる。「仮に」といったのは仮定だからあって、この鍋敷きの精度に難癖をつけているわけではない。「鋳心ノ工房」の鍋敷きには4本脚のものもあるが、使用上、全く問題がない。
しかしながら、鋳造は一般的に寸法精度が確保し難い製造技術である。3本脚とすることにより、仮に寸法精度に多少のばらつきが生じても製品として問題が生じないことは、一般的な生産者にとってメリットが大きい。
一方で、仮に4本脚の鍋敷きを完璧な寸法精度で作ったとしても、テーブルの面精度が悪いと、鍋敷きはガタついてしまう。テーブルの面精度が悪くても、3本脚の鍋敷きならば、鍋敷き自体の寸法精度に関わらず、鍋は安定する。面精度が悪いテーブルなんてあまり見かけるものではないが、例えばキャンプで河原に鍋を置いておきたい時には、この鍋敷きを持っていくと重宝する。
つまりこの鍋敷きでは、作り手のメリットと使い手のメリットが、完全にシンクロしている。デザインの役割とは何かを示す好例といえるだろう。
Mayday:FLOS
普段は床に置いたりハンガーラックに引っ掛けてインテリア照明として使う。ときどき巻き取られたコードを解いて隙間に転がった探し物を照らす。本体は樹脂製で軽く、持ち上げていても腕は疲れない。