花ふきん:中川政七商店
網戸が普及する以前の住宅では、布団の周りに虫除けとして蚊帳を巡らせていた。
花ふきんは、蚊帳生地を縫い合わせて作られている。需要が先細りとなりつつある蚊帳織りの技術を現代に生かす商品といえる。
蚊帳生地は、縦糸と横糸とを交互に重ねたシンプルな平織りで編まれた生地であり、裁縫に使う木綿糸と同等か、それより細い程度の糸が使用されている。夏の住宅で使用することを考えると、風通しをよくするためにこのような生地が好まれたのも必然と言える。
花ふきんは、この生地を2枚重ねにして縫製されている。2枚重ねでも生地の向こう側が透けて見えるくらい薄くて、洗って絞ると手のひらに収まるくらいに小さくなる。一方で、拡げたときの大きさは約60cm角であり、一般的なふきんと比較すると大判といえる。拡げて使えば洗った食器を拭きやすい大きさとなり、畳んで使えばテーブルを拭くのにちょうどいい厚みとなる。
重ねられた2枚の生地は互いに縫い合わされて、よれ難い。また、生地の端部は折り返されて、強度が高められている。薄い生地でも、破れたりほつれたりし難い、丁寧な作り込みがなされている。
花ふきんという名前が示すように、このふきんは、色彩や柄のバリエーションが多い。ふきんをわざわざ綺麗な色に染め上げる発想は、簡単には生まれないと思う。
バリエーションのなかから敢えて個人的なオススメを挙げさせて頂くならば、濃い藍色のふきんをお勧めしたい。淡い色の生地のふきんは使い込むうちに汚れが目についてくるが、濃い色のふきんは、汚れが目立ち難い。汚れが見えなければ、清潔感がある。白くて汚れたふきんを苦々しく思いながら使うより、黒くて汚れが見えないふきんを気楽に使うほうがいい。
そして、ふきんと名付けられているけれども、風呂敷のようにものを包んだりして使うこともできる。包まれたものが少しだけ透けて見えるので、完全に見えなくなる風呂敷よりも、中身が気になるワクワク感を演出できる。
花ふきんは、糊がけされた状態で売られている。洗うとしんなりして、使い込むほどに、柔らかくなる。革の財布や木の器など、使うほどに変化するものを日常生活に取り入れると、少しだけ生活が楽しくなる。少しだけ生活が楽しくなるものに囲まれて暮らすと、けっこう生活が楽しくなる。コロナ禍の今だからこそ、家の生活を見直したい。